そもそも「虚血」とは、何らかの原因で血流が不足する状態のことをいいます。虚血性腸炎は、大腸に血液を送る動脈の血流が一時的に悪くなり、大腸の一部が「虚血」状態になることで、その部分に炎症や潰瘍などが起こってしまう病気です。比較的女性に多くみられる病気です。
血流低下を起こす要因としては、大きく分けると、(1)血管側の問題、(2)腸管側の問題、の2つがあります。
(1)の動脈硬化が原因として最も多いため60歳以上の方によく起こるとされますが、便秘・感染性腸炎・下剤服用による(2)の腸管内圧上昇や腸管蠕動亢進は比較的若い方にも起こりますので「若いから虚血性腸炎ではないだろう」とは言えません。
虚血性腸炎に特徴的とされる症状は、腹痛・下痢・血便です。
典型的な発症パターンはこのような感じです。
「高血圧で内服治療中。もともと便秘で普段から下剤を服用している。ある日、急に左下腹部の腹痛と下痢が起こり、途中から血便もみられるようになった。」
場合によっては入院が必要になる場合もありますので、疑わしい症状があったら早めに受診するようにしてください。
腹痛・下痢・血便がみられる場合、感染性腸炎、大腸憩室炎、潰瘍性大腸炎、クローン病、大腸がんなどの可能性も考える必要があります。最初に詳細に問診させていただき、虚血性腸炎に特徴的な症状や経過かどうかを確認します。その後、必要に応じて血液検査や腹部超音波(エコー)検査を行って診断します。自覚症状や炎症反応が強ければ入院治療を考える必要があるため、適切な医療機関を紹介することになります。
診断の確定(大腸がんや特殊な腸炎などの他の病気が隠れていないかどうか)が必要と考えられる場合は大腸内視鏡検査(大腸カメラ)を実施することもあります。大腸内視鏡検査では虚血性腸炎に特徴的な所見を確認できます。
図:虚血性腸炎の内視鏡像
(縦に走るびらん・潰瘍が特徴的です)
当院では、痛みや苦痛を最小限に抑えた大腸内視鏡検査を行っておりますので、安心して受診ください。
軽症の場合、安静にした上で刺激の少ない食事を摂って腸への負担を少なくして自宅療法します。
症状や炎症反応が強い場合、入院の上で絶食・点滴を行うことになります。
特効薬はないため、基本的には症状を緩和しつつ自然治癒を待つことになります。多くの場合、2~4日で症状は軽快します。
入院を要するレベルの虚血性腸炎を発症してしまった場合、治療として数日間絶食しますので、治療後間もない期間は水分を十分に摂りながら徐々に胃腸に負担をかけない食事を開始するようにします。
消化に良い食品を選ぶように注意し、食物繊維を多く含む食材の摂取は治療後しばらくの間は避けるようにしましょう。胃腸の調子が問題なければ、徐々に今までの食事に戻していけば安心です。
虚血性腸炎の主な原因の一つが便秘です。「便秘をしていなければ虚血性腸炎にはならない」とまでは言えませんが、一度でも虚血性腸炎を経験したことがある方は、まずは便秘の予防につながる食生活や運動習慣に留意しましょう。
良い排便習慣を保つには、日頃の食事内容がとても重要です。食物繊維が多く含まれる食事を意識的に摂るようにしましょう。
一口に食物線維と言っても、食物繊維には、水に溶けやすい「水溶性食物繊維」と、水に溶けにくい「不溶性食物繊維」の2種類があります。
「水溶性食物線維」は水に溶けることでドロドロしたゲル状に変化し、便秘の解消に役立ちます。ゲル状になった「水溶性食物繊維」は、小腸粘膜に張りついて糖質やコレステロールなどの吸収を遅くしたり、体外に排出したりする作用があるため、高血圧、糖尿病、脂質異常症の予防にも効果があります。
水溶性食物繊維を多く含む食品の例としては
が挙げられます。
「不溶性食物繊維」は、水に溶けにくいため、水分を吸収して便のかさを増す作用があります。便のかさが増すと、大腸が内部から圧迫されて腸の蠕動運動(ぜんどううんどう)が活発になることで、排便が促されます。ただし、「不溶性食物線維」は摂取しすぎるとかえって便秘を誘発する場合もあるため摂りすぎないように注意は必要です。
不溶性食物繊維を多く含む食品の例は
が挙げられます。
普段から便秘しない方は過剰に心配する必要はありませんが、普段から便秘がちな方はこれらの点を頭の片隅において生活していただき、それでも便秘の改善がなければ適切な内服薬による治療を受けるようにしてください。