健康診断や人間ドックのオプション的な位置づけでよく検査される「ピロリ菌の抗体検査」について書きたいと思います。血液検査をする際に一緒に追加オーダーできるため、簡便でよく利用されています。しかし、どんな検査でもオールマイティではありませんので、抗体検査で「陽性」と判定された場合、さらなる検査が必要となります。
ピロリ菌の感染状態を判定する
当院で行っているピロリ菌の検査や治療における注意点などについて詳しく解説します。血液中のピロリ抗体が「陽性」の場合、次の3通りのうちのどれかに該当する状態であると考えられます。
(1)現在ピロリ菌に感染している状態
(2)過去に感染していたが、現在は感染していない状態(既感染と言います)
(3)ピロリ菌がいないのに陽性と出てしまった状態(疑陽性と言います)
(2)過去に感染していたが、現在は感染していない状態(既感染と言います)
(3)ピロリ菌がいないのに陽性と出てしまった状態(疑陽性と言います)
除菌治療の適応となるのは(1)の場合のみですが、抗体検査だけでは(1)~(3)のどの状態であるのか鑑別することは困難です。抗体検査で「陽性」と判定された方に対して、上記の(1)~(3)のどの状態なのか確認するための精密検査として、当院は主に「尿素呼気試験」を行っています。
他にも「便中ピロリ抗原検査」というのもあり、どちらもピロリ菌の検査の中では診断精度が高いとされていて現在の感染状態を評価できる検査ですが、検査の簡便さ(絶食で来院いただければOK)から当院では「尿素呼気試験」を主に行っています。
他にも「便中ピロリ抗原検査」というのもあり、どちらもピロリ菌の検査の中では診断精度が高いとされていて現在の感染状態を評価できる検査ですが、検査の簡便さ(絶食で来院いただければOK)から当院では「尿素呼気試験」を主に行っています。
保険診療と自己負担について
なお、保険診療として「尿素呼気試験」を受けるにはいくつかの制約がありますので注意が必要です。※健康診断や人間ドックの場合は保険診療ではなく全額自己負担ですので、そのような決まり事はなく、どのオプションを選ぶのも受診者の自由です。
ピロリ菌の検査だけでなく除菌治療に関しても、保険診療として行うには「胃カメラで胃炎と診断されている」か「バリウム検査で胃潰瘍または十二指腸潰瘍と診断されている」ことが必要であると厳格に決められています。これは、胃がんなどが確実に存在しないことを確認した上でピロリ菌の検査や除菌治療を行ってください、という意味合いで決められているルールなのです。クリニックでバリウム検査を実施することはありませんので、実質的には胃カメラを受けていただき「胃炎」と診断されることが必須である、と理解していただければと分かりやすいと思います。
尿素呼気試験の重要性について
ピロリ菌の感染状態の判定に当院で「尿素呼気試験」を行っているのには、もう1つ大事な理由があります。除菌治療を行った場合の治療効果判定(除菌治療が成功したかどうか)に用いる検査としては「ピロリ抗体検査」ではなく、「尿素呼気試験」か「便中ピロリ抗原検査」が推奨されています。「ピロリ抗体検査」では除菌成功しても完全に陰性化せず「陽性」のまま経過する方も少なくないため、除菌治療後の判定としては分かりにくいためです。
前述した通り精度が100%という検査はありませんので、ピロリ菌が本当は感染しているにも関わらず検査では陰性と出てしまう(「偽陰性」といいます)こともあります。除菌治療前にしっかり「陽性」と判定されることを確認した上で除菌治療を受けていただき、治療前に「陽性」と判定した検査と同じ検査で治療後のピロリ菌判定も行い、「陽性だった検査が除菌後に陰性になった」ことを確認するのが最も正確に除菌判定できる方法であると考えています。その目的もあり、当院では「尿素呼気試験」を除菌治療前に必ず行うようにしているのです。
胃カメラ検査が不要なケースについて
なお、半年以内に人間ドックや健診などで胃カメラ検査を受けていて「慢性胃炎」あるいは「萎縮性胃炎」と診断されている場合、診断名や検査日が分かる結果報告用紙などをご持参いただければ改めて胃カメラ検査を受けていただく必要はありません。あらかじめお電話でその旨をお伝えいただければ、当院で胃カメラ検査を受けていただくことなく保険診療として尿素呼気試験や便中ピロリ抗原検査を受けていただけますので、それらの検査について説明させていただき、ご予約をお取りいたします。
「胃カメラ検査がどうしても嫌で受けたくない」という場合、ピロリ菌の検査も除菌治療もすべて保険診療が出来ないため、すべて自費診療での対応となります。自己負担額が増えるだけでなく、胃がんの可能性を完全に排除できないため、当院では基本的にはおすすめしない方法となりますことを御了承ください。
ピロリ菌検査のフローチャート
長々と書きましたが、ピロリ抗体が「陽性」と判定された場合、シンプルに書けば必要な検査は2通りとなります。「胃カメラ」と「尿素呼気試験」を受ける必要があるか、「尿素呼気試験」だけでいいのか。分かりやすくフローチャートにしましたので参考にしてください。