がんは日本人の死亡原因のトップで、生涯で2人に1人が発症するとされていますので、意外と身近な病気とも言えます。
しかし、がんは初期段階では自覚症状がない場合も多く、気づいたときにはかなり進行していて手遅れになってしまうこともあります。
がんを早く見つけて治療に結びつけるには、どうすればいいのでしょうか?
その方法の一つは、定期的な検診(健診)を受けることです。
消化器のがんは、内視鏡検査で高い精度で診断できますので、健康診断やがん検診や人間ドックなどで内視鏡検査を受けることはとても有意義なことなのです。
今回はがん予防としての内視鏡検査について、わかりやすく説明します。
がんを早期発見、早期治療するための参考にしてください。
内視鏡検査とは
内視鏡検査とは、先端にCCDレンズがついた細いカメラを口や肛門から体内に入れて、消化管の状態を詳細にチェックする検査です。
食道、胃、十二指腸、大腸などの粘膜にできたポリープ・潰瘍・がんなどの異常を発見できます。
また、異常な部分から組織を採取することで、がん細胞の有無、異常所見を来している原因を詳しく調べることができます。
内視鏡検査のメリットは、小さながんでも見逃さずに見つけられることです。
さらに、内視鏡を使って、早期のがんをその場で切除することも可能です。
消化器内科で行う内視鏡検査には、胃や十二指腸を見る胃内視鏡検査(胃カメラ)と、大腸を見る大腸内視鏡検査(大腸カメラ)があります。
それぞれの検査で準備や手順が異なりますので、必ず事前にホームページなどをご確認ください。
胃カメラ:
https://www.ezoe-clinic.com/gastroscope/#a01
大腸カメラ:
https://www.ezoe-clinic.com/colon_camera/#a01
内視鏡検査で見つけられるがん
消化器の内視鏡検査(胃カメラと大腸カメラ)で見つけられる代表的ながんは、食道がん、胃がん、大腸がんです。
- 食道がん
- 胃がん
- 大腸がん
それぞれのがんについて、わかりやすく説明します。
食道がん
食道の粘膜から発生するがんです。
日本では男性に多く見られるがんで、喫煙やアルコールがリスク因子となります。
早期では自覚症状がないことが多いので、進行してから発見されることもあります。
食道がんの代表的な症状は、飲食物がつかえる感じ、胸の違和感(しみる感じ)、体重減少、咳、声のかすれなどです。
内視鏡検査では、食道に発赤が強いところがないか、ゴツゴツした隆起がないか、潰瘍がないか、などをチェックします。
食道がんについて、詳しくはこちらをご覧ください。
https://www.ezoe-clinic.com/esophageal-cancer/
内視鏡検査を受けることが望ましい方
内視鏡検査を受けた方が望ましいのは、以下のような方です。
- 食道がんの自覚症状がある(しみる感じ、食べ物がつかえる感じなど)
- 喫煙歴が長い
- アルコールを多く摂取する(特に顔が赤くなる人は注意)
- 食道がんを治療したことがある
- 食道がんになった家族がいる
- 50歳以上
内視鏡検査は、食道の粘膜を直接観察できるため、早期発見に有効な方法です。
胃がん
胃がんは、胃の粘膜細胞ががん化して増殖する病気です。
症状は、早期の段階ではほとんどないことがほとんどですが、中には進行しても症状がない場合もあります。
内視鏡検査は、胃がんの診断や治療に欠かせないものです。
胃内に周囲の正常粘膜と異なる胃がんの特徴的な所見(色調の変化や隆起・陥凹など)があれば、その部分から組織を採取して病理検査を行い、胃がんの診断を確定します。
胃がんについて、詳しくはこちらをご覧ください。
https://www.ezoe-clinic.com/stomach_cancer/
内視鏡検査を受けることが望ましい方
内視鏡検査を受けた方が望ましいのは、以下のような場合です。
- ピロリ菌感染がある(あった)
- 喫煙をする
- 胃の病気の治療歴がある
- 胃がんの自覚症状がある
- 胃がんの家族歴や既往歴がある
- 50歳以上
内視鏡検査は、胃がんを早期発見・早期治療するために不可欠な方法です。
大腸がん
大腸がんは、大腸粘膜から発生する悪性腫瘍です。
大腸がんは早期のものは無症状のことがほとんどですが、進行すると血便・腹痛・便通異常(便秘や下痢や便が細くなる)などの症状が出ることがあります。
大腸がんは内視鏡検査で見つけることが可能です。
大腸粘膜にできたポリープやがんの位置、大きさ、形などを詳しく見ることができます。
また、病変があればその一部または全体を採取して、顕微鏡で調べられます。
大腸がんについて、詳しくはこちらをご覧ください。
https://www.ezoe-clinic.com/colorectal_cancer/
内視鏡検査を受けることが望ましい方
内視鏡検査を受けた方が望ましいのは、以下のような場合です。
- 40歳以上
- 健診や人間ドックでの便潜血検査で「陽性」となった
- 喫煙する
- 血便、便秘、下痢、腹痛などの症状がある
- 大腸がんの家族歴がある
以上のような方は、早期発見や治療につながる可能性が高まりますので、担当医のアドバイスに従って定期的な検査を受けられることをお勧めします。
がんの1次予防と2次予防について
「1次予防」とは、がんになる原因やリスク要因を避けることで、がんの発生を予防することです。
例えば、禁煙や節酒、食生活の改善などが一次予防にあたります。
「2次予防」とは、がんになってしまった場合に、早期に発見して治療することで、がんの進行や死亡を予防することです。
例えば、がん検診や人間ドックなどが2次予防にあたります。
当院で力を入れている内視鏡検査は、2次予防の中でもとても有効な手段の一つなのです。
内視鏡検査によるがんの2次予防の効果
内視鏡検査は、がんによる死亡を防ぐためにとても有効な手段です。
科学的なデータでも、胃がんや大腸がんは、内視鏡検査で早期発見・早期治療することで大幅に死亡率を低下させることができることが証明されています。
胃がんは、日本人の男性では3番目に多く、男女合わせても3番目に多いがんです。
50歳以上の方に多く見られ、日本人のがんの死亡数第3位になります。
しかし、早期発見された胃がんの5年生存率は96%ですので、早期発見すればほとんどの方が助かることが分かっているのです。
大腸がんは、日本人の男女ともに2番目に多いがんで、男女合わせると最も多いがんです。
40歳以上の方に多く見られ、日本人のがんの死亡数第2位になります。
残念なことですが、ほとんどの先進国では大腸がんによる死亡は減少していますが、日本ではいまだに高止まりの状態が続いています。
食生活の欧米化による発生率の上昇に加えて、おそらく恐怖心や羞恥心から大腸内視鏡検査を受けていない方がいまだに多いため、大腸癌の予防や早期発見が出来ず、症状が出てから進行した状態で発見されていることが多いのも大きな原因の1つであろうと言われています。
大腸内視鏡検査では大腸内を直接観察して、ポリープや大腸がんなどを早い段階で発見するることが可能ですが、それだけに留まらず、大腸がんの原因になるポリープを切除してがんになる前に切除することも可能です。
早期発見された大腸がんの5年生存率は約90%です。
胃内視鏡検査と胃がん死亡リスクの低下
胃がんの検査を受けることは、胃がんになるリスクや死ぬリスクを減らすことになります。
検査は、胃X線(バリウム)検査と胃内視鏡検査の2種類があります。
過去の研究で、13年間にわたって約9万人の人を追跡調査したデータがあります。
その研究では、胃X線検査や胃内視鏡検査を受けた人は、受けなかった人よりも胃がんで死亡するリスクが有意に低かったと証明されています。
具体的な数値を提示すると、胃X線検査を受けた人は37%、胃内視鏡検査を受けた人は61%も死亡リスクが低下しました。
また、進行胃がんになるリスクも、胃X線検査を受けた人は12%、胃内視鏡検査を受けた人は22%も低下したことが分かっているのです。
また、胃がんリスク検診では、ピロリ菌感染の有無、ピロリ感染によって起こる萎縮性胃炎(慢性胃炎)の有無をチェックします。「ピロリ菌感染あり」、「萎縮性変化あり」という結果が出た方は胃がんのリスクが高いと判定されますので、それが分かった時点で「要精密検査」となり胃内視鏡検査を受けるよう指示されます。
胃内視鏡検査で胃がんの有無をしっかりチェックして、ピロリ菌感染に伴う萎縮性変化の程度も確認できますので、その後の最適なフォロー体制を立案することが可能となります。
このように、胃内視鏡検査は胃がんの予防・早期発見に大きく貢献しているのです。
出典:胃内視鏡検査と胃がん死亡・罹患との関連について | 現在までの成果 | 多目的コホート研究
大腸内視鏡検査と大腸がん死亡リスクの低下
過去の多くの研究で、大腸内視鏡検査を受けた人は、受けなかった人よりも、大腸がんになるリスクや大腸がんで死亡するリスクが低下すると報告されています。
例えばイギリスで行われた研究では、S状結腸までの大腸内視鏡検査を受けた人は、受けなかった人よりも、大腸がんになるリスクが26%減り、大腸がんで死亡するリスクが30%低下したと報告されています。また、この研究では1回のS状結腸までの大腸内視鏡検査を受けた効果は17年間持続することが示されています。つまり、1回でも検査を受ければ大腸がんによる死亡リスクを下げる効果が得られるということです。
ただし、大腸がんは全大腸に見られるがんですので、S状結腸まで観察するだけの大腸内視鏡検査は決して推奨されるものではありません。これは国によって医療費・内視鏡技術・医療機関の数などが異なるため、日本にそのまま当てはめることができる結果ではありません。
様々なデータによっても異なりますが、「40歳になったら1度は大腸内視鏡検査を受けましょう」と言われています。何か困っている症状がある方は保険診療で受けることができます。何も症状がない場合は「検診(自費診療)」として受けていただくことになりますが、その際にポリープが見つかって切除した場合は保険診療に切り替わります。
残念ながら先進国の中で日本は大腸がんがまだまだ多いという現実があります。これは大腸内視鏡検査を受けられる方の割合が低いことも一因ということが分かっています。機会があれば是非大腸内視鏡検査を受けるようにしてください。
出典:大腸内視鏡を1回やれば、17年後まで死亡率が下がっていた | MEDLEYニュース
まとめ:消化器のがんを早期発見するための内視鏡検査
内視鏡検査は、消化器のがんを早期発見・早期治療するために有効な方法です。
食道・胃・十二指腸などの上部消化管、結腸・直腸・肛門などの下部消化管、いずれの状態もかなり詳しくチェックできます。
さらに、異常な病変を切除したり、生検することも可能ですので、早期発見のみならず、治療まで行えるとても有用な手段です。
ただし、内視鏡検査だけではがんを完全に防ぐことはできません。
一次予防として、生活習慣の改善や定期的な健康診断も忘れずに行うことが大切です。
がん予防のためには、自分の体と向き合い、自分に合った検査方法を選択することが重要になります。
【参考サイト】
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html
最新がん統計|国立がん研究センター
https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/d001/gairai/kensa/naishikyoukensa/index.html
内視鏡検査 | 国立がん研究センター
https://ganjoho.jp/public/knowledge/basic/index.html
がんという病気について:[国立がん研究センター
https://ganjoho.jp/public/cancer/esophagus/index.html
食道がん|国立がん研究センター
https://ganjoho.jp/public/cancer/stomach/index.html
胃がん|国立がん研究センター