近年、生活習慣の変化に伴い、健康や腸活への関心が高まっています。しかし、「これを食べれば健康になれる」と言われていても、実際に効果を感じるまで特定の食べ物を続けるのは難しいものです。そのうえ、どの方法が自分に合っているかを見つけるのも一苦労ですよね。
私たちの体質は一人ひとり異なるため、同じ食べ物でも、人によっては不調を引き起こすことがあります。そこで今回は、最近注目されている低FODMAP食(低フォドマップ食)という食事療法を紹介します。フィットする方とそうでない方がいらっしゃると思いますので、困っている症状が「いろんな薬を使っても症状が改善しない」、「何かできることはないか?」と思われる方は改善する可能性がある方法の1つとして参考にしてみてください。
FODMAP食(フォドマップ食)とは
FODMAPとは、小腸で吸収されにくい4種類の発酵性糖質を指す用語です。
- Fermentable➝発酵性
- Oligosaccharides➝オリゴ糖
- Disaccharides➝2糖類
- Monosaccharides➝単糖類
- AND
- Polyols➝ポリオール
それぞれの頭文字を取ってFODMAPと呼ばれ、FODMAP食とは発酵性糖質を多く含む食品のことになります。
FODMAPを多く含むものは、パン、ラーメン、うどん、パスタ、ピザ、牛乳、ケーキなど身近な食べ物に多くあります。納豆やヨーグルトのように、一般的には腸に良いと言われている食品も高FODMAP食品に分類されるものがありますのでご注意ください。
FODMAP(フォドマップ)の身体への影響
FODMAP食品の摂取は人によって異なる影響を及ぼすことがあります。どの食品がどのような症状を引き起こすかは、個人差が大きいことが特徴です。
小腸での水分吸収
- お腹が鳴る
- 腹痛
- 下痢
FODMAPは小腸で吸収されにくいため、過剰に摂取した場合、小腸で消化・吸収が追いつかず、糖質の濃度が高くなります。そうなると、身体は糖質の濃度を薄めるために水分を小腸に集めようとします。水分が多くなった小腸は、少しの刺激でも小腸が過剰に反応するとされており、お腹が鳴ったり、腹痛や下痢を引き起こしたりすることがあります。
大腸での発酵
- お腹が張る
- 便秘
FODMAPは、腸内で発酵しやすいことが特徴です。小腸で消化・吸収されなかった糖質が大腸に到達し、腸内細菌の餌となることで過度な発酵が進むとされています。その結果、ガスが発生し、お腹が張ったり便秘を引き起こすことがあります。
身体に起こりえる反応
FODMAP成分を多く含む食事(高FODMAP食)を摂取することで、身体には次のような影響がでると考えられています。
- 便通が正常な方
➝いつもよりも便通が良くなることがあります。 - 便秘しがちな方
➝便秘が悪化したり、ガスでお腹が張って苦しくなることがあります。 - 下痢しがちな方
➝ガスが腸を刺激し、下痢が悪化することがあります。
腸活や消化促進のために積極的に摂取していた食品が、実は困った症状を引き起こしている可能性があるかもしれません。腸活に取り組んでも思うような結果が得られなかった方や、発酵食品や乳製品でお腹の調子が悪くなる方は、高FODMAP食品を摂っていないかどうか、一度確認してみましょう。
低FODMAP食(フォドマップ食)のメリット
なかなか薬でも改善しない症状(お腹の張り、ガスが多い、腹痛や下痢を繰り返す、など)でお困りの方は、FODMAPについて理解し、FODMAPの含有量が少ない食品(低FODMAP食)を選んでみましょう。低FODMAP食品を選ぶことで、大腸内のガス発生と水分増加を抑えられ、困った症状が少しでも改善するかもしれません。
過敏性腸症候群と低FODMAP食(フォドマップ食)
2005年、Monash大学消化器内科の研究者らは、食品に含まれる「小腸でうまく吸収されないか、消化が難しい短鎖炭水化物の一群」を同定しました。研究チームは、これらの短鎖炭水化物を「FODMAP」と名付けました。
彼らは、果物、野菜、パン、シリアル、ナッツ、豆類、乳製品、加工食品など、さまざまな食品のFODMAP含有量を測定しました。このデータを基に、低FODMAP食を初めて開発し、過敏性腸症候群の患者の症状を軽減できることを示しました。
過敏性腸症候群とは
過敏性腸症候群は、大腸や小腸に明らかな異常がないにもかかわらず、下痢や便秘、腹痛、腹部膨満感などの症状が現れる病気です。日本では人口の10~20%がこの病気にかかっているとされています。現代社会の複雑化やストレスの増加により、増えていることが注目されています。
この病気は男性よりも女性に多く見られ、特に20~40歳代の人に多いことが特徴です。男性は下痢型が多く、女性は便秘型や下痢と便秘を繰り返す混合型が多いとされています。原因や症状の悪化には、身体的および精神的なストレスが大きく影響しています。
過敏性腸症候群への低FODMAP食の効果
過敏性腸症候群の症状がある方は、FODMAPが原因で、腹痛やお腹の張り、便秘などの症状が悪化することがあります。FODMAPを多く含む食品を避けることで、症状の改善が期待できるかもしれません。
ただし、低FODMAP食療法は、過敏性腸症候群のすべての方に効果がある訳ではありません。また、薬物療法や心理療法、生活習慣の改善など、他の治療法と併用することが重要であるとされています。
過敏性腸症候群と低FODMAP食に関連した研究結果
スウェーデンの病院で行われた研究には、過敏性腸症候群の症状が中等度から重度の患者が参加しました。参加者は以下の3つのグループにランダムに分けられました。
- 低FODMAP食: 96人
- 低炭水化物食: 97人
- 薬物療法: 101人
各グループは4週間の治療を受け、その後6か月間の追跡調査が行われました。
- 低FODMAP食:参加者の76%が症状の改善
- 低炭水化物食:参加者の71%が症状の改善
- 薬物療法: 参加者の58%が症状の改善
研究では低FODMAP食と低炭水化物食は、従来の薬物療法よりも過敏性腸症候群の症状改善に効果的であることが示され、特に低FODMAP食が最も効果的であったと結論づけています。あくまで1つの研究結果ですので盲信することは禁物ですが、参考となる文献の1つして紹介しています。
潰瘍性大腸炎やクローン病への低FODMAP食の効果
潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患の患者さんに対して、炎症が落ち着いている状態でFODMAP含有量の少ない食事を摂ると消化器症状の改善に効果があるいう研究結果もあります。研究によると、低FODMAP食を取り入れることで、腹部膨満感や便の回数などの症状が有意に改善され、生活の質も向上したことが確認されています。
具体的には、低FODMAP食を4週間続けた炎症性腸疾患の患者さんのうち、52%が消化器症状の改善が認められ、特に腹部膨満感や便の回数が減少したとされています。ただし、炎症に関連するマーカーには変化が見られなかったため、長期的な影響や効果についてはまだまだ議論の余地を残すものとなっています。
高FODMAP(フォドマップ)の食品と低FODMAP(フォドマップ)の食品一覧
低FODMAP食を始める際には、どの食品が適しているかを知ることが重要です。ここでは、低FODMAP食を実践するために役立つ、高FODMAP食品と低FODMAP食品との例を一覧にまとめました。これを参考にして、食事の計画を立ててみてください。
ただし、これらのリストはあくまで参考程度と考えてください。個々の体質によって反応が異なる場合があるため、自分に合った食品を見つけることが大切です。
高FODMAP食品
高FODMAP食品には、以下のようなものがあります。低FODMAP食を実践する際には、これらの食品を控えてみましょう。
穀物 | 小麦、ライ麦、大麦、パン、ラーメン、パスタ、うどん、そうめん、とうもろこし、ピザ、お好み焼き、たこ焼き、ケーキ、パイ、パンケーキ、焼き菓子 |
野菜・いも・まめ類 | 玉ねぎ、にんにく、カリフラワー、アスパラガス、ブロッコリー、セロリ、キムチ、マッシュルーム、ゴーヤ、ねぎ、さつまいも、らっきょう、たろいも、ごぼう、ニラ、豆類、納豆、小豆、絹ごし豆腐、キノコ類 |
果物 | りんご、梨、マンゴー、スイカ、アボカド、チェリー、プルーン、干しぶどう、あんず、もも、グレープフルーツ、ライチ、柿、西洋梨、さくらんぼ、いちじく、すもも、プラム、ドライフルーツ、パパイヤ |
乳製品 | 牛乳、ヨーグルト、アイスクリーム、ミルクチョコレート、プロセスチーズ、カッテージチーズ、ブルーチーズ、クリームチーズ、プリン、コンデンスミルク |
肉・魚類 | ソーセージ、加工肉、魚の缶詰 |
ナッツ類 | ピスタチオ、カシューナッツ |
甘味料・調味料 | ハチミツ、フルクトース、ソルビトール、キシリトール、カレーソース、オリゴ糖、バルサミコ酢、トマトケチャップ、バーベキューソース、カスタード、固形スープの素、わさび、きな粉 |
飲み物 | アップルジュース、マンゴージュース、オレンジジュース、梨ジュース、ウーロン茶、ハーブティー、麦芽コーヒー、カモミールティー、ハチミツ入りジュース、エナジードリンク、マルチビタミンドリンク、ポートワイン、ラム、甘いワイン、りんご酒 |
低FODMAP食品
低FODMAP食品の例としては、以下のようなものがあります。低FODMAP食を実践する際には、これらの食品を積極的に取り入れてみると良いでしょう。
穀物 | 米、玄米、米粉、オートミール、オート麦、そば(10割)、タピオカ、ポップコーン、ビーフン、フォー、タコス |
野菜・いも・まめ類 | にんじん、トマト、ほうれん草、チンゲン菜、白菜、ズッキーニ、きゅうり、じゃがいも、しょうが、レタス、パクチー、なす、ミニトマト、ブロッコリー、セロリ、かぼちゃ、キャベツ、きゅうり、オクラ、パプリカ、ピーマン、もやし、たけのこ、大根、木綿豆腐 |
果物 | バナナ、いちご、ブルーベリー、キウイ、パイナップル、オレンジ、ラズベリー、クランベリー、レモン、ぶどう、ライム、ココナッツ、スターフルーツ、ドラゴンフルーツ、ドリアン、キンカン、メロン |
乳製品 | アーモンドミルク、バター、マーガリン、ゴルゴンゾーラチーズ、モッツァレラチーズ、パルメザンチーズ、カマンベールチーズ、チェダーチーズ、ブリーチーズ |
肉・魚類 | 卵、ベーコン、ハム、肉全般、魚全般 |
ナッツ類 | ヘーゼルナッツ、栗、くるみ、ピーナッツ |
甘味料・調味料 | マヨネーズ、ソース、酢、メープルシロップ、ココナッツオイル、味噌、オリーブオイル、ココア、魚油、カレー粉、唐辛子、バジル |
飲み物 | 紅茶、コーヒー、麦茶、緑茶、レモンジュース、ライムジュース、クランベリージュース、ジン、ウォッカ、ビール、ウイスキー、甘くないワイン、タピオカティー、水、日本酒 |
日常で取り入れやすい低FODMAP食(フォドマップ食)の例
良かれと思って食べている食べ物が、実はお腹の張りや下痢などの腹部症状を助長する原因となっていることもあると言われています。お腹が張りやすい方、ガスが多いと感じる方は、低FODMAP食を取り入れてみてはいかがでしょうか?
ここでは、日常生活で取り入れやすい低FODMAP食の選び方を紹介します。
低FODMAP食品の選び方
【主食】
なるべく小麦製品(パン、パスタ、ラーメンなど)を避け、代わりにFODMAPの少ないお米を選びましょう。メインになる肉料理や魚料理はお腹が張りにくいので、好きなものを食べてかまいません。また、卵もお腹が張りにくい食べ物なので、毎日食べても大丈夫です。
【調味料】
塩、こしょう、味噌、しょうゆ、みりん、マヨネーズはお腹が張りにくいので安心して使ってください。ただし、トマトケチャップやわさびは避けましょう。
【野菜】
お腹が張りにくい代表的な野菜は、キャベツ、レタス、トマト、ブロッコリー、じゃがいも、です。これらにマヨネーズをかければ、立派なサラダになります。ただし、玉ねぎやきのこ類はお腹が張りやすいので注意が必要です。
【デザート】
果物を食べたい場合は、バナナやキウイがおすすめです。
飲み物では、最もお腹が張りにくくなるのは水です。紅茶や緑茶もお腹は張りにくいとされていますが、カフェインが含まれているため脱水に注意してください。
お酒に関しては、炭酸系のお酒は控えましょう。日本酒、焼酎、ウイスキーはお腹が張りませんし、辛口ワインも大丈夫です。
朝食、昼食、夕食の具体的なレシピ例
朝食 | • ベーコンエッグ • オートミール • フルーツサラダ (バナナ、いちご、ブルーベリー、キウイ、パイナップル、オレンジ) • オムライス (ケチャップや玉ねぎは使わないで卵と米、塩、ハム、鶏肉) • ポテトサラダ • バナナ • 米粉パン • 目玉焼き • わかめスープ |
昼食 | • 牛丼(玉ねぎ抜き) • サラダ(トマト、きゅうり、レタス、マヨネーズ) • お吸い物 • 10割そば • 半熟揚げ出し卵 • かぼちゃとひき肉の甘辛煮 • パン粉のとんかつ • ほうれん草のお浸し • みそ汁 • ご飯 |
夕食 | • 鶏肉とほうれん草のクリーム煮 • キャベツとにんじんのピクルス • 冷ややっこ(木綿豆腐) • 海苔 • ご飯 • エビとズッキーニの炒め物 • 豚肉の生姜焼き • 木綿の湯豆腐 • 玄米ご飯 • 肉じゃが(玉ねぎ抜き) • 野菜炒め • 茶碗蒸し • みそ汁 • ご飯 |
低FODMAP食(フォドマップ食)の導入方法
消化器症状を改善するための低FODMAP食による食事制限は、以下の3つのステップを踏むと効率的であるとされています。この流れで、自分に合った食事を見つけていきましょう。どの食材が自分に合うかを見つけて、無理なく続けていくことが大切です。
1.高FODMAP食品を制限(約2~6週間)
FODMAPが消化器症状に影響しているかどうかを確認する期間です。
この期間では、FODMAPを多く含む食品をできるだけ避けてください。
制限するだけでもお腹の症状の改善が見られることも多いです。実感するためには、個人差がありますが、1週間から数週間必要とされています。
お腹の調子が良くなれば、そのまま続けて次のステップへ進みます。
変化がなければ、原因は別にあるかもしれないので、一旦中断してください。
2.再導入 (約6~8週間)
この期間では、特定のFODMAPが消化器症状の原因かどうかを確認するために、少しずつFODMAPを再導入(制限を解除)します。各FODMAPグループの食品を少量から再開し、徐々に量を増やしていきます。
症状が再度出現した場合、その食品がトリガーであることがわかります。
たとえば、1日目にアーモンドを10粒、2日目に15粒、3日目に20粒といった具合に試してみましょう。症状が出たら、その量が許容範囲であることもわかります。
3.バランスの取れた食生活へ
再導入期間で得られた結果を基に、症状を引き起こすことが分かった高FODMAP食品を避けつつ、栄養バランスの良い食事を続けます。これにより、消化器症状を抑えながら生活の質を向上させることが目標です。
低FODMAP食(フォドマップ食)のポイント
低FODMAP食は、正しく実践しないと栄養不足になり健康に悪影響を及ぼす可能性があります。低FODMAP食を始める前に、注意点をしっかり理解しておきましょう。
調理によって変わる
同じ食材でも、調理方法や組み合わせによってFODMAPの量が変わることがあります。
たとえば、とうもろこしは高FODMAP食品ですが、ポップコーンにすると低FODMAP食品になります。また、絹ごし豆腐は高FODMAP食品になりますが、木綿豆腐は低FODMAP食品です。低FODMAP食品だと思って食べていたものが、実は高FODMAP食品だったという場合もあるため注意しましょう。
ただし、低FODMAP食は厳しい食事制限を目的とするものではなく、自分に合わない食材を見つけるためのものであると意識しておくことが最も重要です。もし食べても体調に問題がなければ、制限する必要はないのです。
バランスを考える
極端な食事制限は栄養バランスを崩す可能性があるため、低FODMAP食品だけを食べ続けることは避けましょう。高FODMAP食にも身体に必要な栄養素が多く含まれているため、自分の症状に悪影響を及ぼさない食品は適度に摂取することが大切です。
「高FODMAP食を完全に避ける」ではなく、「身体に不調を引き起こす可能性のある食品を控える」という柔軟な考え方を持ってください。高FODMAP食には腸の働きを助けるものも多く含まれているため、これを制限しすぎると便秘になることがあります。便秘になった場合は、食物繊維が豊富な食品を意識して摂取するようにしましょう。
まとめ
FODMAPは「発酵性オリゴ糖、二糖類、単糖類およびポリオール」の頭文字を取ったものです。これらの糖質は、小腸で吸収されにくく、大腸で発酵しやすい特徴があります。
低FODMAP食とは、これらの糖質を制限する食事のことです。
低FODMAP食の腸活とは、単に高FODMAP食品を避ける食事法ではありません。これは、自分のお腹に合わない食品を見つけるための方法です。過敏性腸症候群(IBS)の治療の第一選択ではなく、あくまで1つの方法と認識してください。栄養バランスが偏る可能性があるため、自己判断で極端な制限を行うのは避けましょう。
腸の不調がある場合、まずは医療機関で大腸内視鏡検査を受けることをおすすめします。低FODMAP食の食事法を始める前に、医師や管理栄養士に相談してください。
お腹の張りや下痢、便秘、腹痛などの症状は、過敏性腸症候群だけでなく、大腸がんなど他の病気でも見られることがあります。自己判断せず、他の病気がないことを確認してから食事法に取り組みましょう。